【一橋大学公開講座】「企業版格差社会の国際比較」
当期公開講座の最終講義は中野誠准教授による実証研究。G7にスペイン、韓国、オーストラリアを加えた十カ国の全上場企業1万5千社について、1985年から2006年までの財務数値を時系列に調査した結果をグラフで説明いただいた。
財務数値は端的に、ROA(総資産利益率)とROE(株主資本利益率)であるが、日本と米国は非常に対照的な両極端の国とのこと。米国企業はとくに直近5年間で上場企業の約3分の1が営業赤字というくらい企業の業績に最も格差がある国で、日本は逆にその格差が最も小さい。米国ほどではないが、英国、カナダ、オーストラリアなど他のアングロサクソン系の諸国も企業業績に格差が見られる。グローバル・スタンダードというけれども、実はアメリカン・スタンダード、アングロ=サクソン・スタンダードかも知れないから、なんでも日米の比較論で考えるのは妥当ではない場合があるでしょうというお話。
アングロ=サクソンの国で格差が大きい背景にはNASDAQやAIMのような新興企業向けの証券市場が設けられたことがあるのだが、それは90年代以降、世界の先進国で試みられてきたことである。ただ、それらアングロ=サクソンの国ではダメモトで出資を募ることや、それらまだ黒字になったことのない新興企業に投資することが是とされるような国民性のようなものがあるそうだ。
とくにROEの格差が米国で大きいことを調べていくと株主資本比率が日本とくらべて低くなっているそうである。現在では日本企業で株主資本比率40%に対して、米国企業は約20%となっているそうである。ROE経営ということが10年くらい前に言われたことを思い出すが、高配当で株主資本を減らし、負債を増やしていくというファイナンシャル=レバレッジによってROEは高くなる。これは特に米国で機関投資家の発言力が強く、企業にROEを高めるようプレッシャーをかけてきたところに原因があるそうだ。
ただ、株主資本を小さくすることは、ROEの変動を大きくするし、経営そのものの安定性を弱めるという問題が生じる。国別にROEの平均と標準偏差とを二つの軸にとってプロットすると日本企業はローリスク・ローリタン型の経営で、米国はハイリスク・ハイリターン型の経営であることが読み取れる。最近は、日本でも機関投資家の発言力が強まっているが、短期的にROEを高くするために中長期的な経営の安定性を犠牲にするような行動を企業がとっては困るというのが中野先生の懸念であった。
株式会社というのはカネが希少な資源であった時代に創造された制度であるのに、カネが余っている現代に株主主権が強調されるのは如何なものか、株式会社という制度も将来は変わっていくものなのかも知れないというのがまとめ。数字に裏付けられて、なかなか面白い知見をいただいたが、アメリカの企業の格差の大きさと株主資本の薄さを思うと、まだまだアメリカの実体経済は悪化しそうだというのが今日の講義を聴いて思ったことであった。参考書として、『日米企業の利益率格差』(伊丹敬之編著、2006年有斐閣)をあげられていた。
五回の講義のすべてを聴講したが、四回以上の聴講者には「修了証」を下さるというので頂戴してきた。五回で6,200円は安かったし、面白かった。
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